自家歯牙移植における臨床的考察
要旨
The author believes that saving the periodontal ligament is the most important element for a successful autotransplantation. In this study, one case that the problem is caused by the mismatch of donor tooth and recipient site, and the other that saving of the periodontal ligament was attempted by adding orthodontic force to the donor tooth before transplanting are reported.
筆者は自家歯牙移植を行うにあたり,移植歯歯根膜の保存をすることが,成功につながる一番の重要事項と考えている.今回,移植歯と移植床との不適合が問題になる症例,および術前に矯正力を加え歯の歯根膜を弛緩させ歯牙の移植を行った2症例を報告する.
緒言
欠損補綴において咬合の回復を図るとき,ブリッジや義歯の支台歯は常に2次カリエスや歯周病に罹患する危険性にさらされる.特に,支台歯として健全歯を削合する時は,治療の正当性を慎重に考慮してから行う必要がある.しかし今日,歯科医学の発展により欠損部の両隣在歯にダメージを与えない補綴処置として自家歯牙移植やインプラントも選択肢の1つに加わり,予知性の高い方法として臨床に取り入れられるようになった. そこで今回,中間歯欠損補綴に対し,咬合に関与していない智歯を移植する事により,両隣在歯に削合によるダメージを与えることなく咬合の回復が図られた2症例を提示し,若干の考察を加えた.
移植の基本事項
1.術前診査
1)移植歯の診査
(1)カリエスや充填物を除いた健全歯質の量としては根尖より8㎜以上が必要条件となる(表1)
(2)歯根膜量として5㎜以上は必要(表1)
(3)歯垢,歯石の沈着の有無
(4)移植歯歯根の太さが移植床顎提の幅以内かどうか
(5)歯根形態として容易に抜歯が行える形態.著しい彎曲根などは,抜歯時に歯根膜が剥離損傷を受けるため,不適当である.
2)移植床の診査
(1)顎提の幅と深さ (下顎管,上顎洞との関連)
(2)顎提の形態 (必要なら断面模型)
(3)付着歯肉幅が十分かどうか
①切開線の位置 移植後の頬側付着歯肉の不足を避ける為なるべく舌側に設定する
②付着歯肉移植が必要かどうか
③頬側歯肉弁の種類 full thickness flap (歯肉弁根尖側移動術を同時に行う場合に限りpartial thickness flapで行う)
2. 術式
1) 局所麻酔
歯根膜に損傷を与える可能性があるため,歯根膜内麻酔は禁忌である.
2) 移植歯の処置
カリエス処置,咬頭の削除は抜歯前に行う.抜歯はダイヤモンド付抜歯鉗子を用いて行い,歯根膜のダメージを極力少なくする.
3)受容側の切開,剥離:基本的にはfull thickness flapで行う
4)プロ−べ,ワイヤーを利用し移植歯の計測と断面形態を把握する
5)ソケットの形成
6)移植歯の挿入は骨の抵抗感がなくスムーズに行う
7)縫合
8)固定:ワイヤーとレジンにて行い約3週間が目安

症例 1
患 者:K.T., 24才, 女性
主 訴:冠がとれたまま]を放置
初診日:1999年6月16日
既往歴:特記すべき事項なし
現病歴:他院にて]の根管治療を受けるも途中で治療を中断し2年間放置していた
治療方針:
]は保存不可能であった為抜歯,前処置としてあらかじめ移植床を形成し,約2週間後に矮小歯のOを移植する.
治療経過
1999,7,13 ]抜歯、同時に移植床の形成 (図1,6)
7,29 O抜歯、移植床に挿入し固定は縫合のみ (図2,7)
7,30 0.16×0.16ワイヤーとレジンにて固定 (図8)
8,16 根管治療開始,水酸化カルシウム貼薬
10,21 根管充填,支台築造後3ヶ月間自然挺出させる 2).
2000,3,29 最終補綴物装着 (図3,4,9)
5,30 リコール.異常は認めなかった (図5)









症例1 考察
1.移植歯と床との不適合について
移植歯と移植床の不適合部が歯槽骨によって満たされて治癒するには,歯槽骨側からと移植歯側からの回復が必要である 1).言い換えれば抜歯窩の治癒機転としての骨形成と歯根膜による固有歯槽骨の誘導が必要なのである.抜歯創の治癒機転において,およそ3週間後には抜歯窩内は密な肉芽組織で満たされ,歯槽壁よりの化骨化もより著明に起こり,窩底部ではほとんど新生された骨梁が形成されてくる 3).移植においてはそれが支持歯槽骨となってゆく.また歯根膜による骨誘導については,固有歯槽骨は周囲の支持歯槽骨とは発生学的に異なる骨で,歯根膜やセメント質と同様に歯小嚢から発生してくる組織であるから,歯小嚢の存在しない移植の場合は歯根膜細胞が分化してまず骨芽細胞となり,固有歯槽骨を形成してゆくものと考えられる.したがって本症例のように適合が悪くなることが予測される場合は,抜歯窩への即日移植は避け移植床の治癒を待ってから処置するほうが成功率の向上につながると考えている.
2.移植後の経過について
術直後,移植床との不適合により移植歯の埋入が少し深すぎた為,垂直性の骨欠損様のX-線所見を呈した.しかし,3ヶ月間の自然挺出によって骨レベルがほぼ水平化し,メインテナンスにおいても安定した経過が期待できるのではないかと思われる.
症例 2
患 者:Y.k., 26才、女性
主 訴:数年前に移植処置をうけたRが痛くて噛めない.
初診日:1997年6月9日
既往歴:特記すべき事項なし
現病歴:他院で移植処置をうけたRは,浮いた感じがしていて強く噛めなかった.
治療方針:
Rに対する再根管治療による治癒も考慮したが、根の吸収像は全く見られず歯槽硬線は不明瞭で、歯根膜空隙も歯根全体に拡大していた為、保存不可能として抜歯した.そして半埋伏の_を移植歯とした.
治療経過
1997,8,7 R抜歯、同時に移植床の形成 (図10)
移植歯を顎間ゴムにて牽引開始
8,27 _を移植床に挿入、縫合のみ行う
8,28 0.16×0.16ワイヤーとレジンにて固定 (図11)
9,9 根管治療開始
9,29 根管充填
10,16 固定除去 (図12)
1998,5,10 最終補綴物装着 (図13)
1999,3,1 リコール.異常は認めなかった.(図14)





症例2考察
著者は,移植後の良好な治癒を得るためには,歯根膜の存在が最も重要な事項であると考えている.移植歯の歯根表面に歯根膜細胞が残っていれば,歯根膜由来細胞が歯根面に到着し結合組織性治癒が容易におこりうるからである 4). 移植歯が半埋伏で骨植が強固である本症例においては,抜歯の際、歯根膜が剥離,損傷することが予測できた.そこで事前に矯正力を加えることで抜歯を容易にし,歯根からの歯根膜の剥離を防ぐ方法を用いた.また,移植床の固有歯槽骨内は,慢性炎症症状を呈していたため,抜歯と同時に十分な掻爬を行い,あらかじめX-線上で計測した移植歯の大きさに移植床を形成する.そうする事で,3週間後の移植時に骨には触れることなく肉芽組織の掻爬のみで移植歯の挿入がスムーズに行えた.一方,手術が2回になるため,外科処置に対する患者の負担が増えてしまったことが欠点として挙げられる.
まとめ
基本事項を守り,術式に則って移植を行おうとしても必ずしもすべてがうまくいくとは限らない.そこで筆者は何とか成功に導く為に、歯根膜に着眼し,工夫を加えることが大切だと考える.本症例におけるポイントとしては,極力歯根膜に損傷を与えないように,抜歯前に咬頭を削除し,矯正力により歯根膜を十分に弛緩させた後,移植を行っている.また,歯根膜はpHや浸透圧の変化に弱く,乾燥状態で18分間放置されても大半の歯根膜が生存しているのに対し,30分では半分以上,120分では大半が死滅するので,移植床に挿入するまでの間は一度も口腔外に出さずに処置を終えるようにした.これにより,自家歯牙移植の利点の一つである,移植歯に付着している歯根膜による骨誘導能が十分に発揮されてくるのではないかと考える.
文献
1)下地 勲:入門 自家歯牙移植.第5刷:p50-67,永末書店,1998.
2)宮崎正憲:自家歯牙移植とMTM.アドバンス自家歯牙移植,ザ・クインテッセンス別冊:p125-135,2000.
3)冨岡徳也:抜歯創の治癒機転.抜歯の臨床 歯界展望,別冊,p384-386,1979.
4)Melcher A.H.: On the repair potential of periodontal
tissues.J.Periodontol.,47:256,1976.
5)下地 勲:自家歯牙移植の適応症の検討PARTT,ザ・クインテッセンス,13(1):69-84.

